通信ジャーナリストの島田雄貴が、NTTのフレッツやイーアクセス、ソフトバンクのADSLなどのブロードバンド事情を紹介します。
ブロードバンドとは
速度20倍以上
ブロードバンド回線とは「高速なインターネット常時接続回線」の総称だ。従来のダイヤルアップ接続やISDNと比べてケタ違いに通信速度が速いことはご存じだろう。例えば、56kbps(毎秒5万6000ビット)のモデムと比べると、1.5Mbps(1500kbps)のフレッツADSLやイーアクセスの速度は20倍以上だ。
料金が定額制
見落としがちだが、速度のほかにもう一つメリットがある。通信料金が定額制という点だ。ダイヤルアップ接続ではインターネット・接続サービス・プロバイダー(ISP)が定額制でも、NTTなどの電話料金は別。テレホーダイなどの例外もあるが、接続時間によって課金される「従量制」が普通だ。
プロバイダーも定額
KDDIやイー・アクセス、NTT、ソフトバンクなどのブロードバンド回線を導入すれば、もはや接続時間を気にする必要はない。プロバイダー(ISP)料金も通信料金も月額いくらの定額制なので、“つなぎっぱなし”でも一定額以上はかからない。
回線を切断する必要がない
ダイヤルアップ接続で通信料金を気にする人は、例えばメールなら、受信→回線を切断→読む→返事を書く→回線を接続→送信、といった面倒を繰り返していたはずだ。定額制でつなぎっぱなしなら、受信→読む→返事を書く→送信、で済む。Webページの長い文章を読むときも、回線を切断する必要はない。地図・路線やテレビ番組表、動画などのサイトにも、必要なときにすぐアクセスできる。
社内LANのような状態
ブロードバンド回線の通信料金が定額制なのは、“電話”と違うからだ。むしろ社内LAN(ネットワーク)などに近く、回線自体は常に接続状態になっている。接続するためにパソコンから電話をかけることはなく、常時接続回線を通じてプロバイダーの認証手続きを行うだけだ。従って、プロバイダーが話し中にもならない。
料金、速度、提供エリアを比較
現在、導入できる主なブロードバンド回線はイー・アクセスやソフトバンクなどのADSL、CATV、NTTや有線ブロードのFTTH(光ファイバー)、FWA(無線)の4つ。料金、速度、提供エリアなどについて、簡単に比較した。
データ信号を音声信号と一緒に流す
ADSLは通常のアナログ電話回線に、高い周波数のデータ信号を音声信号と一緒に流す技術だ。同時に流れている2種類の信号をスプリッターと呼ばれる機器で分離する方式なので、インターネットを使いながら電話も使える。
NTTの設備を借りてサービス
電話回線はNTTのものを使うが、イー・アクセスのように、それを借りてサービス展開するADSL事業者も多数ある。ADSLの難点は、NTT収容局(電話局)から離れるほど通信速度が低下すること。離れすぎていると、事業者に申し込んでも使えない旨、通達される。
CATVインターネット
CATVインターネットは、ケーブルテレビ(CATV)の専用ケーブルにインターネットのデータ信号を流す方法だ。基本的にはテレビの視聴を申し込み、インターネット接続をオプションで追加する形になる。
光ファイバーなら最大100Mbps
FTTHは専用の光ファイバーケーブルを家庭内に引き込む。速度は最大で100Mbpsと群を抜いて速い。ただし、提供エリアが大都市の一部に限られるのが難点だ。
FWAは無線
FWAは基地局と電波で通信する方式で、家庭内に受信機を設置する。提供エリアは狭いが、CATVやFTTHの専用ケーブルが引き込めなかったり、距離などの問題でADSLが使えないユーザーに向いている。
ADSLだけが格安の数千円
通信速度は事業者によって異なるが、FTTHを除けばどれも数百kbpsから数Mbpsだ。月額料金はどれも5000円前後。初期費用は、イー・アクセスなどのADSLだけが数千円で、ほかは1万~3万円強かかる。FTTHとFWAはサービス地域がかなり限られるので、現実的にはADSLとCATVが有力候補となるだろう。
ADSLの初期費用が安いのは既存の電話回線を使うためだ。専用ケーブルを一般家庭に引くにはコストがかかる。このため、事業者設備から家庭までの距離を業界では「ラストワンマイル」と呼んでいる。イー・アクセスのようなADSLはラストワンマイルを一番賢く乗り越えたサービスだ。
アナログ回線の技術
なお、ADSLはISDN回線では使えない。アナログ回線の技術なので、NTT収容局とユーザー宅では、ISDNとは別の設備が必要となる。ちなみにISDN回線もアナログ(ADSL)回線も、ユーザー宅に引かれているケーブルは同じメタル線(銅線)だ。NTT収容局やユーザー宅の設備を変えているだけだ。
電源コンセントから接続
衛星インターネット
ラストワンマイルへの取り組みは、以上の4種類だけではない。既にサービスを終了させているが、「Mega Wave」(法人向けはまだある)や「PerfecPC」といった衛星インターネットもラストワンマイル候補の一つだったといえる。そして近い未来、新しい技術として期待されているのが電灯線インターネット。電力供給に使われている電灯線にデータを流そうというものだ。これが実現すれば、家庭用の電源コンセントがまさにブロードバンドへの入り口になる。
家電製品が発するノイズの影響
とはいっても、法改正が必要だったり、ほかの家電製品が発するノイズの影響などクリアすべき問題があり、今日、明日に実現されるものでもない。今はADSL、CATV、FTTH、FWAの4つが現実解といえる。
エリアを確認する
ブロードバンド選びのポイントは、一にも二にも提供エリアだ。いくら安くて高速でも、サービス地域外では絵に描いた餅。ADSL、CATV、FTTH(光ファイバー)、FWA(無線)について、事業者一覧を掲載したので、まずは提供エリアのご確認を。
エリア調べは詳細に
ADSLとCATVはほぼ全国にサービスが展開されている。都心部などでは、FTTHやFWAが選べる人もいるだろう。しかし、居住地が提供エリアの都道府県や市区町村に該当しても、安心するのはまだ早い。ADSLの場合は電話番号によるチェック、CATVでは自分の住所が該当するかを事業者に電話などで確認する必要がある。FTTHとFWAでも住所確認が必要だ。
提供エリアは電話番号で区分け
ADSLは既存の電話回線を利用するため、提供エリアは電話番号で区分けされている。この電話番号区分は必ずしも行政区域とは一致しないので注意が必要だ。NTTの収容局によっては、隣接する行政区域にまたがっている。
提供エリアをチェックできるWebサイト
このため、ソフトバンクやイー・アクセスなどほとんどのADSL事業者が、電話番号を入力して提供エリアをチェックできるWebサイトを設けている。
大都市や県庁所在地からサービスを展開
回線事業者は需要の見込めそうな地域、人口が多い大都市や県庁所在地からサービスを展開していく。特に、FTTHやCATV、FWAなどラストワンマイルの設備投資が大きいサービスは、ADSLと比べて事業者ごとの提供エリアが狭い傾向がある。
大都市や県庁所在地からサービスを展開
このため、市の名前が提供エリアにあっても、市内全域でサービス展開しているとは限らない。また、近隣の市区町村まで提供エリアを拡大していることもある。取りあえず提供していそうな事業者は、電話やWebサイトなどで確認することだ。フレッツISDNは定額制
どの提供エリアにも該当しない場合は、現時点ではあきらめるしかない。とはいえ、もしフレッツ・ISDNの提供エリアなら、それに申し込むのが次善の策だ。64kbpsでは少々物足りないが、通信料金は定額制だ。
ブロードバンド回線が突然来なくなる
ブロードバンドの選択肢が一種類しかない人は、迷わずそれに申し込むことをお勧めする。事業者の展開計画はあくまでも予定。ブロードバンド市場は競争激化で予断を許さないのが現状だ。来ると思っていたブロードバンド回線が突然来なくなることも十分起こり得る。
フレッツ光がおすすめ
次に、いくつか選択肢がある場合だが、まずはNTTのフレッツ光などのFTTH(光ファイバー)。もし提供エリア内で、かつ料金や導入までの日数(1~2カ月程度)に折り合いがつけば、迷わずこれを導入したい。現在のコンテンツでは100Mbpsという速度をもて余すかもしれないが、将来性はピカイチだ。
ソフトバンクのヤフーBBもエリアを急拡大中
ADSLとCATVはそれぞれのメリット、デメリットをしっかりと把握したい。というのも、この二つは提供エリアが重なる可能性が非常に高い。CATV事業者は300社近くでほぼ全国をカバーしている。ADSLも急速にエリア拡大が進み、フレッツADSLは年内にも全市制都市をカバーする予定。イーアクセスやソフトバンクのヤフーBBもエリアを急拡大中だ。
インターネットだけが目的ならばADSL
格安電話もかけたいならCATV
簡単に結論を言えば、インターネットだけが目的ならばADSLがお薦め。有線テレビも見たい、格安電話(CATV事業者が提供)もかけたい、さらにはインターネットも、と複合的な目的ならCATVがよいだろう。
ゲーム、チャット、TV電話が使えないCATVも
CATVは本格的なインターネット利用では不便な点がいくつかある。プライベートIPアドレスを付与するCATV事業者があるため、ネットワークゲーム、チャット、TV電話など、ブロードバンドで期待されるアプリケーションが利用できない可能性があるのだ。
プライベートIPアドレスとは
プライベートIPアドレスは社内LANと同じような仕組みで、複数の加入者がルーターを介して間接的にインターネットに接続するため、グローバルIPアドレスによる直接的な接続を必要とするアプリは使えない。また、セキュリティが甘いと、同じルーター(事業者設備)内にあるほかの利用者の共有フォルダーなどが見えてしまうこともある。
複数台のパソコンなら追加料金
ブロードバンドルーターなどを使って複数台のパソコンから同時にインターネットに接続する場合に、追加料金が必要となる事業者が多いのもCATVのデメリットだ。
ADSLはグローバルIPアドレス
一方のADSLは、ダイヤルアップ接続と同様に、プロバイダーに接続するごとに動的なグローバルIPアドレスが付与されるため、利用可能なアプリケーションの制限はない。複数台の同時接続で別料金を取られる心配もまずないと言ってよいだろう。しかし、ADSL特有の技術的な不安要素がある。特に収容局からの距離が遠いと速度が低下するという問題、アナログ回線でしか使えない点だ。また、収容局からユーザー宅までの電話回線が一部でも光ファイバー化されていると、ADSLは利用できない。
無線は住宅事情の救世主
最後に無線インターネット。これが選択できるユーザーは幸せかもしれない。FWA事業者の数はFTTHよりは多いものの、ADSLと比べて圧倒的に少ない。しかしFWAにはADSL、CATV、FTTHなどの弱点を補う特徴がある。
光ファイバー化のためにADSLを断念したユーザー
受信機のアンテナを見晴しの良いところに設置するだけでよく、ケーブルが不要な点だ。集合住宅でCATVやFTTHのケーブル引き込みが難しいと言われたユーザーにとっては十分試してみる価値がある。収容局からの距離や光ファイバー化のためにADSLを断念したユーザーにとっても救世主だろう。
ADSL選びのカンどころ
ADSLは“回線を選べる”ため、少々分かりにくい。総務省(旧郵政省)の「加入者回線開放」政策でNTT以外の回線事業者が参入し、プロバイダー(ISP)事業と絡めたサービス形態が複数あるからだ。ADSLでは「回線」と「ISP(プロバイダー)」の事業を分けて考えるとよい。国内のADSLサービス形態は、大きく3つある。
メリット | ○ | 既存の電話回線を使うので初期費用が安い |
---|---|---|
○ | ISPを選べる事業者が多い | |
○ | 集合住宅でも使えるケースが多い | |
○ | モデムを選択できる事業者もある | |
デメリット | × | 収容局から離れると速度が落ちる |
× | 一部でも光ファイバー化された回線があると利用不可 | |
× | 隣人のISDN回線で速度低下の恐れがある |
※イー・アクセスのADSLのメリット、デメリット(島田雄貴まとめ)